「それにさ、世の中には知らなくていいこともあるって言うじゃん」
一度ズズッと鼻をすすって(確かその日は結構寒かった)
また話始める。
「相手の考えてること全部わかったら、その人の黒い感情とかもわかっちゃうじゃん。そんなのいちいち感じてたら疲れちゃうよ」
「黒い感情って?」
「この人のことは嫌いとかそういうの」
「あー」
「だから、そういうのを感じられない俺らは案外幸せなのかもよ」
ねっ。
もう一度そう言ってニコッと笑ったあいつを見て、
そうなのかも、って思った。
乾いた土に水が吸い込むように、
あたしの心があいつの言葉を吸い込んだような気がした。


