斜め前の君



近付いて来た顔は、髪にそっとキスを落とした。


そしてにっこりと微笑み


「仕返しに、あんたで遊んであげる」



そう言って、再び顔を近付けてきた。


今度は唇に狙いを定めて



しかし、あと少しの触れるか触れないか、というところで近付けるのをやめた。


「っや…だ……」




莉沙の手が、体が、尋常じゃないくらいに震えていたから。



「……やめ、て」


絞り出される声は、聞き取ることが難しいくらいに弱々しい。



ただ、顔を近付けただけなのに……




莉沙が震え、さすがに何もできずにただ立ち尽くしていると



「莉沙ー終わったー?」


「っ愛美…」


「え…どうしたの?……山中..大輔...君?」


教室に帰ってきた愛美は莉沙のただならぬ様子に戸惑った。

莉沙が震えていて、側には山中大輔がいて、状況を想像することは出来たがどうすれば良いか分からない。


愛美がおろおろとしていると莉沙は乱暴に机に置いてあった物を鞄につめて



「あ、愛美!もう終わったから。早く帰ろう!私玄関で待ってるから」

「え、う うーん」



と、逃げる様に教室から出ていった。

愛美は一緒にいた大輔をちらっと見てすぐに莉沙の後を追った。




莉沙の怯えたような表情が頭から離れない、大輔だけを教室に残して……