斜め前の君



「あんたさ、翔(カケル)と前に付き合ってた?」

「え・・・?」

「翔。遠矢翔だよ。」


遠矢翔-トオヤカケル-

確かに、莉沙が1年のときに付き合っていた人だ。

しかし、彼と交際をしていたことは誰にも言っていない。なのにどうして、この人は知っているのだろう。

何よりも、翔との付き合いは莉沙にとっては思い出したくないことばかりであった。

2年の始まりで別れ、ようやく彼を忘れかけてきた所で、初対面の男の子から彼の名前を出され、莉沙は動揺が隠せなかったが、精一杯、平然を装った。



「何で?」

「気になったから。で、どうなの?」

「・・・君には関係なくない?」



莉沙は答えを渋る。何でこんな初対面の人に過去の恋愛遍歴を話さなければいけないんだ!
しかし彼は引こうとはしない。


「関係はあるよ。」

「え・・・?」


莉沙は予想外の言葉に眉をひそめた。関係なんてあるはずが無い。だって、翔とは関係があったとしても私には無関係なはずだ。



「…盗られた」

「・・・はい?」

「あんたの元彼に彼女盗られた」



だからって、私には関係なくないか。
莉沙の眉間のしわはますます深くなる。



「だから、」



首を傾けて困っていると、男の子は一歩、近づいてきた。



「翔に仕返ししなきゃなって思ってね。」



また少し莉沙に近づいてくる。

顔には何か裏がありそうな笑みを貼り付けながら。


「ちょっ・・・・」


気づいたときにはもう遅かった。