『もっとさ、俺にもお前や凌兄みたいな大人っぽさがあったら良かったのになー…』


『…なんだよ、凌さんがどうかしたのかよ?』





前に一度だけ校門にいる凌さんを遠目で見たことがあった。

遠目なのに、そのかっこよさははっきりとわかった。





『あいつ、ぜってぇ凌兄を選ぶんだ…』


勇紀が躊躇いがちに呟いて、
瞳がせつなげに揺れていた。



『選ぶ…?』


そう言った時、勇紀が栞ちゃんの婚約者になったことを教えてくれた。


そして、あの“無理”だと言った本当の理由――…



『栞…あいつさ?自覚ねぇけど、昔っから凌兄のことが好きなんだよ、多分…』


切なそうに言葉を発し、表情も少し苦しそうで、見ているこっちまで辛くなった。


『…んで、凌兄も……』



それはきっと、ずっと側にいるからわかってしまうことなんだろうか。



無理だと言った、本当の理由が分かった。


勇紀が彼女を想うように…

彼女も違う人を想っていた。



なんて、辛いんだろう。


出来ることなら、勇紀と栞ちゃんがくっついてくれればいいのに…。




そう思ってしまう俺は、たった一人の勝手な意見だ。