今日の・・・

「何?何なん?」
森下君が目を丸くしている。
「ううん、なんでもないよ」
「なんでもないことないやろ、そんなとこで手ぇ合わせて・・・」
「いいからいいから、早くご飯行こよ」
私は強引に森下君の腕を掴むと、歩き出した。
 ちょうどその交差点を真ん中辺りまで渡っている時だった。後ろからなにか、寒気を感じ振り返ろうとした瞬間、
「あっ!」
私は思わず声を上げた。

 成仏させたはずのあの女の霊が私たちの横を通り、追い越そうとしたいた。私と並んだ瞬間、顔を上げニヤリと笑うと、立ち止まった私を置いて正面から来る人の波の中に消えていった。

「どうしたん?信号変わってまうで?」
森下君に声をかけられはっとした。
「あ、ごめんごめん、なんでもない・・・」

 私もまだまだ未熟。突然車に轢かれ、わけもわからないまま死んだあの女性、成仏どころか、私を利用して事故の瞬間の記憶を取り戻したようだ。そしてこれから映画さながら犯人のもとへ復讐に向かってしまった。

「・・・しまったなぁ」
「何が?」
「森下君、車乗るやんなぁ?運転、ほんま気をつけなあかんで」
「?」

 人を殺してのうのうと生きてるなんてことの方が不自然、これも自業自得。犯人は多分、あの世に連れて行かれるだろうけど、仕方ないか・・・。ちょっと後味は悪いけど、とても止められるような殺気ではなさそうだったし、どうしようもない。