「どう?怖かった?」
森下君が腰掛たまま背伸びをして言った。
「そやね・・・」
まさか本物が出てきて気になって映画の内容を覚えてないとも言えず・・・。
「いい時間やし、ちょっと早いけど、夕飯、食って行こか」
「うん」
私たちは劇場が明るくなってから席を立った。もう何もないのかな、あの女の霊に何かしっくりいかないものを感じながら外へ出た。夕方5時前だったが、まだ陽も高くてまぶしい。映画館前の交差点は人と、車で賑わっている。その時、
「ねぇ・・・」
耳元で囁く声にびっくりして振り返った。目に飛び込んできたのは、交差点の角のガードレールにくくりつけたれた汚れた小瓶だった。来たときには気がつかなかったのに・・・。更に、一瞬、その小瓶いっぱいに花が供えられているのが視えた。
「あぁ、そうか・・・」
「何?」
森下君が聞いてきた。
「森下君、ここ地元やんな?」
「そうやけど?」
「ここって、事故とか多い?」
「そうやなぁ。結構多いんちゃうかな。何年か前には轢き逃げもあって全国ニュースにもなったで」
「そうなんや」
その時また、
「・・・わたし・・・」
消え入りそうなかすれ声が聞こえ、もう一度小瓶に目をやった。
汚れた瓶の傍らにあの女性が立っていた。交差点をじっと見据え、透けた体がユラユラして見える。
「ちょっと待ってて」
今日ここでこんな映画を見て、そして何かの理由で私と出会ったのも縁、急にそんな気がしてきて、手を合わさずにはいられなくなった私は、きょとんとしている森下君を置き去りに、小瓶のそば、つまり女の足元にしゃがみ、成仏を祈った。
 しばらくすると、横にいた女性の気配が上へ上がって行くのを感じたので、私は目を開けた。