「なんだろう・・・」
目を凝らして意識を集中させる。それは背の高い、痩せた女だった。具合でも悪いかのようにグラグラと揺れている。不自然に長い腕がだらんだらんと揺れている。タンクトップにジーンズと言うラフな格好で、背中まで長い髪を垂らしている。
「やっばいかな・・・」
思わず小さな声が出てしまった。森下君が、どうしたん？　と言うような視線を私に向けたので、手を振ってなんでもないよ、と伝えた。
　やがて女は私の視線に気付いたように３メートルほど先で立ち止まると、ユラユラしながらこちらを振り返った。
「うっ！」
その容貌に思わず息を呑んだ。長い髪の間から黒いギラギラした細い眼が私を見ている。頭、ちょうど右の額の上辺りが欠けていて、口や鼻、その欠けた頭の部分から血が流れている。こんな、えげつない霊を見たのは久しぶりだった。しばらく視線を逸らせないままでいると、女はまたくるりと前を向き直り、前へグラグラと進み出し、ついにはスクリーンに吸い込まれるように消えてしまった。
「なんやねん・・・」
何故出てきて、誰だったのか、何もはっきりしないままで気分は悪かったが、私はそのまま席を立つことなく上の空で女が吸い込まれたスクリーンを見つめ、そのまま映画は終わってしまった。