6月10日
 
朝から鬱陶しい雨の朝だった。しとしと降る雨は傘を差していても、湿気と一緒に体にまとわり付いてくるような気がする。気持ち悪い。
 学校までの1キロほどの道を歩いていた。歩道の無い生活道路で、ところどころに水溜りができている。通りすがりの車に水を跳ね上げられないように気をつけて歩いていたが、ほとんどの車は横を通り過ぎるときに速度を落としてくれる。
 足元を見ながらうつむいて歩いていたが、ゾクッとする感覚にふと顔を上げると、
前方から、いかにも!と言う感じの黒いセダンが結構な速さで近づいてきた。道路すれすれに落とした車体、朝から大音量に響くステレオ。すべての窓は黒いフィルムが張られ、中は良く見えない。見えないのに・・・・?と思っていると、その車は私の目の前に迫り、スピードを落とすことなく過ぎていった。
「パシャッ!」
見事、私のジーンズはひざから下がびしょぬれになってしまった。
「何すんねん!」
思わず声に出して振り返り、去っていくセダンをにらみ付けた。

「・・・・そのまま呪われといたらいいわ!・・・・ほんまに最悪や。生活も運転も同じそんな奴は・・・。親の顔見たいわ。」
ぶつぶつ言いながら私はふんっと前を向きなおして学校へ向かった。

 去って行く黒いセダンの後部座席の窓に、髪を振り乱した若い女がへばりついていたのだった。あんな真っ黒なフィルムを通して、生きてる人間なら見えないはずなんだけど。あれは、あかん子だ。あの車の男に相当な扱いを受けてる・・・いや、受けていた・・・。
 ちなみに女を外すことも出来なくは無かったが、私は、そんな知らない奴に「術」を施してやるほど優しくは無い。