今日の・・・

「いるの?その子・・・?」
理恵が口を挟んだ。
「うん」
「いやぁ・・・・」
皆が声にならないような小さな声をあげた。佐智子も、詩織ちゃんを抱いて揺すっていた手が止まった。
「どうしたらいい・・・・?悪いことある?」
佐智子は詩織ちゃんを抱いたまま座り込み私の顔を覗き込んだ。
「亡くなった子、4,5歳の男のなんやけど、両親も相当悲しんだし、本人も勿論死にたくなかったし、まだこの辺うろうろしてんねん。で、この土地の人間に恨みをもってた小動物がさ、その子のこと、けしかけてるねん。面白半分にね」
「なんて・・・?」
「赤ちゃん、つまり詩織ちゃんの体、取っちゃえって・・・」
「えぇ?!」
佐智子は思わず詩織ちゃんを隠すように体を丸め、
「どうしたらいい?どうしたらいい?」
と今にも泣き出しそうに言った。私は一息置いて答えた。
「・・・あのね、クロが守ってる」
「え?」
「クロってそのクロ・・・?」
みんな揃って縁側で寝そべるクロに目をやった。
「どういうこと?」
「クロさぁ、ものすごく感謝してるよ、この家の人のこと。捨てられたんだって、前の飼い主に。遠くから車で来て、置き去り・・・。寂しいし、怪我するし、どうしようって途方に暮れてたら佐智子に拾われたねんて」
「そうなんや・・・」
佐智子がため息混じりに言った。
「犬なりに、また愛情をかけられて可愛がってもらえてること、ちゃんとわかっててさ。相手は小動物と子供だし、やっぱりクロみたいな大きな犬は本能的に怖いねん。クロもそれを知っていて、だから吠えるねん。クロが急に吠えるようになったのって、詩織ちゃんが生まれてからちゃう?」
「そう!!」
佐智子は即答した。
「クロ、言ってるよ。僕が絶対に守るって、何があっても詩織ちゃんのこともママのことも守るって」
みんな、押し黙ったままクロの後姿を見つめた。