無我夢中で外に飛び出した森川だったが、気付いた時には月の光さえ届かない林の真っ只中にいた。
志乃が追ってくる気配はない。
森川は、まだ震えが残る自分の指に舌打ちしながら僅かに残っていたタバコを取り出した。
ライターが森川の手を照らした。
「えっ!?」
ほんの数秒だったが、自分の手に深い皺が見えた気がした。
「疲れた…」
森川は頭をふり、腰を下ろした。
恐ろしさのせいか、もう体が思うように動かせない。
「ゲホッ、ゲホゲホ」
タバコにむせた森川は、自分の胸を押さえてハッとした。
体格がいいはずなのに、いま、骨の感触をもろに感じたのだ。
気味の悪い風が吹き、突然、届くはずのない青白い月明かりが森川をゆっくりと照らした。
「あゎあぅあ…」
森川の手は皺だらけだ。
腰も曲がり、立っていられない。
よろけるように倒れ込んだ森川は、目の前の水たまりの中に皺だらけの老人そのものの自分をみた。
「ひっヒィ~」
頭に手をやるとバサッと音をたてて白髪がまとめて抜け落ちた。
「グァあぁ!」
森川は激しい胸の痛みを感じたが、それもほんの一瞬で、その場に倒れたまま動かなくなった。