つくづく俺は運がない…山道を歩き続けながら、森川は舌打ちした。
母親が男と逃げて、父親は誰だかわからずじまい。引き取り手もないまま、施設で育ち、就職もせずにチンピラにスカウトされた。
そして今は追われる身…。
生まれ故郷など知る由もないが逃亡者は北を目指してしまうようだ。
それにしても誰にも見られたくない一心で無人駅に降りてしまったが山道をいっても民家などない。
失敗した。
でも、町など行こうものなら組の手配が全国に流れている。
警察に保護してくださいなんて恥ずかしい真似はしたくはないが、最悪の結論としてはありかもしれないな。
「ん?」
木がザワザワと風で動いた。その拍子に向こうに明かりがみえたのだ。
「家だ!」
古い造りだが、電気が通っているようだ。
こんな山の中だ。住人は一人暮らしの年寄りだろう。
「な~に。ちょっと脅せば…」
森川は、すきっ腹のお腹をナイフで撫でながら舌なめずりをした。