“俺のおかげだ”とか“ありがとう”なんて言われたが、そんなことはない。
まだ危なっかしい部分もあるが、誰に対しても目配り気配りができるいい社員になった。
それは、もともとの性格からくるものだと思う。でも、まだ働き始めて1ヶ月の長澤に気づかされることはたくさんあった。
こうして長澤のいいところを知れたのも、きっと彼女のおかげ。
俺もこの1ヶ月で少しだが周りを見ることができるようになった。
“ありがとう”を言うのは俺のほうかもしれない。
そんなことを考えながらビールや焼き鳥をつまんでいると、やっと店長たちに解放された長澤が戻ってくる。
乾杯のすぐあとに俺と話をして、食べる間もなく店長につかまった長澤はヘトヘトだった。
「お疲れ」
「あ、はい、どうも・・・・」
当然と言っては当然。
疲れきった顔の長澤には、さすがに“かわいそうに・・・・”と同情してしまう。
それでも、さっきまでの引きつった笑顔ではないことに俺はちょっと安心する。
何なんだろう、
この気持ちは・・・・。


