それから登坂さんは、麻紀さんと別れたばかりの頃のことを聞かせてくれた。
とても辛かった、と。
お酒を飲んでやっと眠れても、すぐに朝になって仕事に行って。
心が擦り切れて、誰にも関心が持てなくなった・・・・と。
「そんなとき、長澤が入社してきて、店長に指導を任された。今だから言うけど・・・・正直迷惑だったんだよな」
“ごめん”
登坂さんは苦笑いを浮かべた。
「いえ・・・・」
「でも、そのおかげでやっと解放されたような気がした。麻紀のことが吹っ切れたのは、長澤がいたから・・・・。あのときもごめん」
あたしが初日に泣いてしまったとき、偶然登坂さんに涙を見られたことがあった。
登坂さんが怖くて泣いちゃったんだよね・・・・。
それを見て、登坂さんは“ただ単に泣きたかっただけなんだ”って気づいて泣いたって。
「いえ。あたしも何かの役に立てていたんですね。嬉しいです」
本当にそう思う。
5年の重みがどれほどのものか、あたしには想像もつかないけど。
役に立てたのなら嬉しい。


