「麻紀が借りた部屋なのに先に出ていくとか、ありえないだろ」
「・・・・」
「そのときは涙も出なかったよ」
フッ・・・・と自嘲的な笑みを浮かべて、窓の外からあたしに視線を移した登坂さん。
あまりにも切ない色をした瞳の中に困惑顔のあたしが小さく2つ、映り込んで揺れている。
「そのあと、俺も部屋を引き払ってこのアパートに移った。そこに長澤が引っ越してきて、いつの間にか好きになっていた」
「・・・・」
「おかしいよな。あんなに辛い思いをしたのに、どうして俺はまた人を好きになれたんだろう」
「あたしも・・・・同じです」
綾ちゃんが登坂さんを好きだと言葉でも行動でも現していたとき、あたしは“想うだけの恋でいい”って思ったはずだった。
それなのに、日に日に気持ちが膨らんでいって、もう想いに蓋をしきれなくなった。
本当、どうして人はまた人を好きになるんだろう・・・・。
「たぶん、相手が長澤だったからだろうな。一生懸命で素直で、弱いかと思えば強くて。長澤が身近にいたから、俺はまた好きになれたんだと思う」


