夜の冷たい風が、ヒーターで暖まった車内に流れ込んでくる。
登坂さんの短い髪がわずかになびいて、少なくなった秋の虫が悲しそうに泣いている声が聞こえた。
麻紀さんの寂しい気持ち・・・・赤の他人のあたしにもよく分かる。
想ってくれていないんじゃないかって、大切にされていないんじゃないかって思ってもおかしくない・・・・とあたしは思う。
それが麻紀さんの“限界”だったんだよね。
そしてそれが、登坂さんが引きずるきっかけになった“別れ方”なんだよね・・・・。
悲しい恋の結末と、寂しく鳴く虫の声が否応なしに重なった。
「“やり直せないか”」
「・・・・え?」
「何度も聞いたんだ。でも麻紀は首を縦には振ってくれなかった」
「そう・・・・だったんですか」
うん。
窓の外に視線を投げたまま、登坂さんは小さく頷いた。
「部屋を出ていくときに笑って言ったんだよ、あいつ・・・・」
───『ありがとう、誠治。・・・・今までわがままばかりでごめん。誠治とつき合った5年間、本当に楽しかったよ』


