こんな言い合いも、また楽しい。
客足が引いてすっかり静かになった店内に、俺たちの笑い声だけがしばらく響いていた。
「こんな店でよかったら、またいらっしゃいね」
別々に会計をしていると、奥さんが俺たちを交互に見ながら言う。
「今度は、それぞれ大切な人と。いつまでも待ってるわ」
ニコニコと笑って、お釣りを受け取るときにそっと手を握られる。
少し荒れていて、温かく、優しい人柄が表れているふくよかな手。
その手から、奥さんにも心配をかけていたんだということが痛いくらいに伝わってくる。
「はい、必ず。近いうちに必ず来ます。・・・・待っていてください」
込み上げてくる感情を悟られないよう、俺は笑顔で返す。
同じようにして手を握られている麻紀は、涙がこぼれ落ちる間際。
無言で何度も頷いていた。
「お前の彼女も、お前の彼氏も、今度じっくり見させてもらうぞ」
と、そこに店の奥からしゃがれ声が新たに加わる。
見れば、洗い物の大鍋に目を落としたままのご主人だった。


