俺には麻紀で、麻紀には俺・・・・お互い、相手を好きだった時間はもう戻らない。
半年前の別れから、俺は長澤に出会い恋をし、麻紀は新しい恋で傷つき痛い失恋をした。
その事実も変わらない。
もし、1つだけ麻紀から何かをもらっていいのなら、そして長澤がそれを許してくれるなら。
俺は、麻紀を好きだった気持ちだけをもらっておきたい。
・・・・そう思う。
「あれっ? 誠治、もう食べないの? だったら私が・・・・」
「はっ? やめろ、食うって! 俺だって腹減ってんだ!」
少し考え込んでいたうちに、麻紀は食事を再開していたらしい。
俺の野菜炒めに箸を伸ばしているところを寸前で止める。
今日は、閉店になるとすぐにここまで車を走らせたんだ。
麻紀には悪いが野菜炒めは譲れない。それくらい腹が減っている。
店長は珍しがっていたが、たまには俺だって早く帰りたいし、ちゃんと飯も食いたい。
「なんだ、ぼーっとしてるから、もういらないかと思った」
「考え事だ。本当に麻紀は食い気ばっかりだな」


