「あのさ、麻紀」
俺は、箸を置いて真正面から麻紀の顔を見た。
“後悔を残したまま”・・・・長澤が言ったそれは、何も今話している話題だけじゃない気がする。
「なに、急に」
麻紀も箸を置き、少し驚いた顔で俺を見返す。
「ちゃんと別れよう」
「え?」
別れた、別れたと思っていたが、実際には俺はしばらく麻紀のことを引きずっていた。
長澤を好きになってからも一歩が踏み出せなかったのは、ふとしたときによぎる麻紀を苦しめたあの“別れ方”だった。
長澤に“重い”というトラウマがあるのなら、俺にはそれがトラウマなのだと思う。
「あの“別れ方”」
「別れ方?」
「そう。今でも後悔してる。仕事ばかりでろくに相手もしなくて、いつも寂しい思いをさせて」
「・・・・」
「本当は俺、別れようって言われたとき、プロポーズして麻紀の気持ちをつなぎ止めておきたかったんだ」
「プロ・・・・ポーズ」
麻紀の瞳が丸くなる。
口をぽかんと開けて、さっきの何倍も驚いた表情で俺を見ている。


