本当、参ってしまう。

人がいる場所で、いくら角の席で見えにくいからといって、女性に頭を下げられるなんて・・・・。

男からしてみれば、なんとも言いがたい微妙な心境だ。


「でも、びっくりしたな。まさか誠治から連絡があるなんて。今から話すことも、これに関係してたりするの?」

「あ、うん。まぁ・・・・」


と、そこに顔馴染みである店の主人の奥さんがやってきた。

ニコニコ笑いながら、麻紀の分の水をテーブルに置く。


「久しぶりだねぇ、あんたたち。しばらく来なかったから、私も主人も心配してたのよ〜」


笑いじわができている奥さんは、年の頃、60歳くらいだろうか。

嬉しそうに笑う奥さんに、俺は少し罪悪感を覚えてしまう。


「あ、私たち春先に別れちゃったんですよ。でも、久しぶりにご主人の定食が食べたくなって。無理言って、彼につき合ってもらってるんです」


なんとなくしか笑えない俺に代わって、麻紀は半分嘘のことを奥さんに伝える。

それを聞いた奥さんは「そうだったの」とだけ言って、また笑いじわを作った。