それから少しして、なんとか涙を目の奥にしまい込んだ頃。
ふと、腕時計が目に入った。
思いのほか長く話し込んでいたようで、いつの間にか長針がちょうど一周していた。
「梅村、時間大丈夫か?」
聞くと、彼女は慌てて携帯を取り出しディスプレイを確認する。
“やばい”だの“どうしよう”だの声は聞こえないものの、その様子から本人も時間の経過具合をうまく把握していなかったようだ。
「もし良かったら送るけど。その・・・・お礼がてらに」
「あのね!そういうところが登坂さんのいいところであって、悪いところでもあるんですよ?」
「・・・・はぁ」
「ちょっとは自覚してるかと思ってましたけどっ!」
「すまん」
せわしなく身支度を整えながら、梅村綾はぴしゃりと言う。
迷惑をかけたし、世話にもなったし、感謝のつもりだったのだが。
どうやら逆効果のようで、少し前の怒った彼女に戻ってしまった。
「今度、何かおごってもらいますから!じゃあ!」
そして、バタン。
矢のごとく帰っていった。


