なんで、どうして・・・・。
答えなら俺が一番よく分かるはずのに、頭の中ではその単語が何度も浮かんでは消える。
それ以外は真っ白だ。
そして。
「あ。泣いてる・・・・」
そう遠慮がちに指を差されたときにはすでに遅く、俺の視界はぼやけてにじんでいた。
すぐに隠すように目頭を押さえ下を向くが、動作より先に梅村綾の口が真実を述べたのだから、それも全く意味はない。
少し考えれば分かることなのに、そうしてしまうのは・・・・。
見られたくないという、ちっぽけな“プライド”なのだろうか。
「・・・・梅村、俺はバカかな」
小さく声を絞りだす。
「そうですね」
少し間を開けて答えたその声の調子は“おしゃべり”を始めてから一番の優しい声だった。
顔は見えないが、きっと声と同じ優しい顔をしているのだろう。
「あいつに伝えてくれないか・・・・“ありがとう”って」
「はい」
「梅村も、ありがとう」
「いえ」
涙は嘘をつかない。
俺は今、とても幸せ者だ。


