「───っ」


階段はあと数段で終わるというのに、かけた右足が動かない。

涙が後から後から溢れてきて、足下の視界がぐにゃぐにゃになる。





そのうち雨が降りはじめて、屋根のない階段のあちらこちらに小さな水溜まりを作った。

登坂さんはまだ帰らない。

もしかしたら、今夜は帰らないかもしれない。

・・・・もしかしなくても、きっと今夜は帰らないと思う。


頭の中では、早く部屋に入らないと風邪を引いてしまうとか、小百合や綾ちゃんになんて言おうかとか、そんなことがぐるぐると回っていたけれど。

それもただ漠然としたもので、あたしは雨の中で泣き濡れていただけだった。





雨は通り雨だったらしく、少しすると水溜まりに落ちる雨粒も頼りないものになった。

それも完全に上がると、秋の虫たちが待ってましたとばかりに一斉に鳴きはじめて。

そしてあたしは・・・・。


「・・・・っくしゅん」


やけに響く自分のくしゃみと、それを追うようにして感じる悪寒でやっと我に返ることができた。