・・・・たぶん、ううん、きっと、そう思い込もうとしていた。

それが“逃げ”だということは、あたしにだってよく分かる。

でもなんだか、そうしないと壊れてしまいそうで、あたしはモッサ君を選んだ。


想うだけの恋は自分が辛くなるだけで、どんどんどんどん周りが見えなくなって。

自分の気持ちがはっきりしているぶん、周りの人の気持ちには鈍くなっていって。

“好き”は止まらないのに、伝える勇気も度胸もなくて・・・・。


初めて味わった片想いの失恋は、とても苦い味がした。

例えるなら、あのとき買ってもらった100円コーヒーのよう。

ビターなビターな大人の味・・・・。





───カン、カン、カン


アパートの階段を上がる。

あたしはもう、登坂さんを想わない。想わない、想わない・・・・。

片想いにケリをつけるように、1段1段上がっていく。


でも・・・・。

こんなときに思い出すのは、やっぱり登坂さんの顔で。

見なければまだ想い続けていたと確信できる、女の人を抱きしめ返す登坂さんで。