コトッ。
コップが麻紀の手からゆっくりと離れ、小さな音を立てた。
「でも、それが間違いだった」
ついさっきのため息は、きっとこのことだったのだろう。
コップから目を上げた麻紀は、天井に向かって吐き出すようにそうつぶやいた。
「・・・・間違い?」
「そう、間違い」
少し間を置いて俺が聞くと、同じ言葉を反復する麻紀。
目は天井に向けられたままだ。
「私が何も言わないのが悪かったんだけど、彼、どんどん堂々と浮気をするようになって・・・・」
そう言うと、麻紀は天井から俺に視線を滑らせた。
悲しそうで切なそうで、それでいて、孤独な目をしていた。
「堂々・・・・」
俺はその言葉を小さくつぶやく。
「うん。平気で嘘ついてデートをすっぽかしたり、知らない香水の匂いを付けて帰ってきたり・・・・そのほかにもいろいろ」
「そう」
「一緒に住んではいなかったけどよく遊びに行っていたから。だから余計に・・・・ね」
「最低な奴だな、罪悪感の欠片もないじゃないか」


