「ひどいよ〜」と泣きそうな声を出して顔の水を拭う長澤。
梅村綾はケタケタ笑う。
「で、話を戻すが・・・・」
「あ、はい」
短くなった煙草を消し新しく火をつけ直すと、俺は話を戻した。
2人の姿が微笑ましくて俺もモッサもついつい見入ってしまった。
「それからだよ、妙に長澤が気になりだしたのは。目立つ奴でもないのに気づくと目で追っていた」
「はい」
「もともと煙草は3ミリだったけど、長澤が知らずに8ミリを買って。それからはこれ」
指に挟んだ煙草をチラッと見せ、味わうように一口吸う。
「登坂さんって、案外かわいいところがあるんですね。ジッポも長澤のためですか?」
「・・・・まぁな。振られた彼女からの誕生日プレゼントだったんだ、あれ。でも、もう必要ないから」
「そうですか。すごいですね、登坂さん。本気・・・・なんですね」
感心したように言ったあと、モッサは“本気”の部分に少し力を込めた。
モッサも本気・・・・同じ人を好きな者同士、改めて言葉を交わさなくても感覚で分かり合える。


