「長澤には、ちょっとやそっとじゃ克服できないでかいトラウマがあるんです」
「トラウマ・・・・?」
モッサはこくりと頷く。
「誰かを好きになっても、そのせいで臆病になっているんです」
「・・・・あぁ」
どう返事をしたらいいか言葉が見つからなかった俺は、渇いた喉の奥からなんとか声を出した。
長澤のトラウマ・・・・。
俺と同じように長澤にもあったんだ、恋に踏み出せない理由が。
それってもしかして───・・。
「それは・・・・“重い”ってことなんです。いつもその理由でダメになるらしくて・・・・」
“もしかして”と思うのとモッサの口から“重い”という言葉が出たのはほぼ同時だった。
それを俺は前に聞いた。
5月、歓迎会で酔っぱらった長澤が背中でぽつりと言った寝言。
忘れかけていたが、モッサの一言ではっきりと思い出した。
あのとき「重い女なんて嫌・・・・」と確かに長澤は言った。その声が切なく耳に響いたんだ。
それが長澤が抱えるトラウマ・・・・やっぱりそうだったんだ。


