波打ち際の浅いところでは、長澤と梅村綾が追いかけっこをして遊んでいる。
追いかけるのはもっぱら梅村綾で追いかけられるのは長澤。
パシャパシャと水しぶきを上げて右に左に逃げ回っていた。
その姿を一通り眺めたあと、モッサは俺に向き直って言う。
「俺、前に一緒にバイトしてた頃から長澤に片想いだったんです。でも、あの頃は長澤には彼氏もいたし、幸せならそれでいいって思ってました」
「そうか・・・・」
「はい」
モッサは携帯灰皿に白くなった灰を落とし、それから一口吸って話を続ける。
その一連の動作の間、俺は自分の煙草の灰を落とすのも忘れてただ見守っていた。
「で、ここからはフェアじゃないので言っちゃいますけど・・・・」
「フェアじゃない?」
「そうです。登坂さんとはこそこそしないで正々堂々と渡り合いたいと思うんです、俺。だから教えます」
「・・・・」
なんだろう。
モッサは知っていて俺は知らないこと───バイト時代のことだけじゃなかったのか?
真剣な表情に心臓が活発に動く。


