「お客様、何かお探しですか?」
するとそこに店員が現われた。
「男性の水着もありますので、よろしければ彼氏さんのもいかがでしょうか?」
完璧な営業スマイルで、俺と長澤を見てニコニコ笑う。
この人から見れば俺たちはつき合っているように見えるのか・・・・。
“彼氏”という響きに、否応なしにドキドキする。
実際には、職場の同僚で、たまたま海に行く計画があって、たまたま休みが重なって、たまたま一緒にいるだけだ。
でも、たとえお世辞だろうが社交辞令だろうが、営業文句だろうが嬉しいものは嬉しい。
「・・・・あの、いかがでしょう?」
ワンピースタイプの水着を持ったまま固まる長澤と、気を抜くと口元が緩みそうな俺。
2人とも何も反応がないものだから、店員がもう一度聞く。
「あ、いや・・・・。こっちで見てますから」
「はぁ・・・・」
慌ててそう返事をすると、女性店員は不思議そうな顔をして仕事に戻っていった。
長澤もドキドキしたのだろうか。
だったら嬉しいのだけど・・・・。


