その日、部屋に帰ってもあたしはなかなか寝付けなかった。
綾ちゃんのあの言葉が、また胸の奧をチクッとさせる。
バイトを初めて数週間の綾ちゃんが、もう登坂さんを笑わせた。
あたしは1ヶ月経ってもそうはいかなかったのに・・・・。
今でこそ、それなりに話ができるようになったけど、なんだか綾ちゃんに先を越されたみたいでちょっと悔しい。
綾ちゃんの積極性に影響を受けているのかな・・・・。
比べるほどのことでもないのに、なぜか綾ちゃんと比較して考えてしまうんだ。
「はぁ──・・」
テレビを見ていても、ご飯を食べていても、ため息がもれる。
そういえば、今日は登坂さんと一言も話さなかったっけ。
『長澤』って呼んでもらってなかったっけ・・・・。
「矛盾してるなぁ・・・・」
“恋の傍観者”と決め込んだくせに、心のどこかで意識しはじめている自分がいる。
胸が痛んだのがその証拠・・・・なのかもしれない。
でも・・・・。
それでも、登坂さんの部屋のほうに体を向けるとなぜか安心した。


