逢いたい時に貴方はいない

「色々ね。」

『そっか。』


意味深な言い方をしたのは婚約を知ってほしくなかったからか…

それとも心配してほしかったからなのか
自分でもわからないケド……


私はそう答えた。
…ケド、
彼は理由まで聞こうとはしなかった。

こんな時、
池田さんなら
きっと理由も聞くし、
凄く心配してくれる。

私はそういう人が好きなんだ!


…なのに。

聞き出さない彼が気になって仕方ないし、
ガッカリもしていた。


『ま、人生大変な事の方が多いからな。』

彼はそう言うと
自分のグラスを空にした。


お酒が喉元を通る姿を見ながら、


波をうつ喉仏が愛しいと思った。


グラスをコースターに置く手が愛しいと思った。


久々に見た彼を一つ一つ確認するかのようにマジマジと見る私に彼が気づいて……


『なんだよ そんなに見てたら穴空くわっ』と、照れくさそうに笑った。

(あぁ…ダメだ。やっぱり私、この人が好きなんだ。)

そんな権利はとっくに無いのに、図々しくも
その笑顔を
いつまでも、
ずっと見ていたいと私は願った……