「けど4月。
この高校の入学式の帰りに久しぶりに夏弥が楽しそうに笑ったんです。

その時の僕はただ単に、ようやく吹っ切れたんだ、なんて簡単に考えてました。

でも違ったんです。
夏弥が楽しそうに笑うのは、体験入部しに行った日だけだって気づいたんです」



少年が私に視線を戻す。


「夏弥のあの笑顔は……亜姫先輩がつくったんですよ」



そう言って、またあの柔らかい笑顔を私に見せた。



そんなバカな……。



そう思っても言葉が返せない。



私は赤羽くんと出会った日を思い出す。



あの日、確か……彼は庭園の一番大きな桜の気を眺めてた。



人の顔を覚えるのが苦手な私だけど、あの日の赤羽くんの横顔は何故か今も鮮明に覚えてる。



見とれてたのは……私の方だった。