時間はあっという間に過ぎて昼食の時間になった。
わたしは非常階段に急いだ。

「ほら、どれがいい!!」
わたしは、両手にあふれんばかりのパンを翔馬に差し出した。
クリームパン、アンパン、ジャムパン、ハムカツパンなど、いろいろなパンを取り揃えた。
「なんだよ、この数」
「翔馬の好みがわかんないから、購買のパン、買い占めてきちゃった!!」
「おまえ、スゲェな!! …じゃ、これ、もらいっ!」
翔馬はハムカツパンを取る。

「ほら、これ、やるよ。パンのお礼」
翔馬が何かを投げてきた。

「何!?」わたしは両手でキャッチする。

イチゴケーキタルトがミニチュアになったストラップだった。

「これ、どうしたの?」

「ゲーセンの景品だよ。お前、こういうの好きだろ。家いっぱいあるからさ」
「うわっ!嬉しい」

「たかが、ゲーセンの景品ぐらいでそんなに喜ぶなよ」

「たかがじゃないよ。だって、はじめて翔馬がくれたんだもん。大切にするね」

「そんなの。ゲーセンに行けばいっぱいあるし」

「見てて」

わたしは、カバンからペンを取り出すとケーキタルトのストラップの裏に相合傘を書いた。
相合傘の右にわたしの名前「ひな」って書く。

「さっ、翔馬も書いて」

わたしからペンとストラップを渡された翔馬はしぶしぶ「しょうま」と書いた。

翔馬から受け取ったストラップを握って、嬉しさに飛び跳ねる。

「これで、世界でたったひとつのストラップだよ」

「おまえ、頬にゴミついてる」
翔馬がわたしの頬を翔馬の手が優しくなでる。

お互いの視線が交じり合った。
翔馬の顔が覆いかぶさってきて、わたしは目を閉じた。

非常階段の上で、わたしと翔馬はキスをかわした。

タバコは好きじゃないけど、少しタバコくさい彼の口はちっともイヤじゃなかった。

わたしはあまりにも幸せすぎて
わたしたちのキスを階段の下から見ているものがいる者がいるのに
気づいていなかった。

《第四章に続く》