翔馬に案内されたのはラブホテルの前だった。

「待って、ラブホテルって!!」
わたしは躊躇する。

「なんで、イヤなの?」

「だって、今日は初デートだよ。告白だってまだだし、メールのやりとりもしてない。
そうなるには、キスとか、いろいろと段階を踏んでからじゃないと…」

その時、唇を奪われた。
彼の唇の感触が伝わってきた。
一瞬のことで、何がなんだかよくわからなかった。

わたしの唇から離して翔馬が微笑んで言う。
「ほら、一段階進んだから、いいだろう」

うそっ、ファーストキスが、ラブホテルの前なんてありえない!
もっとロマンチックなものを夢見ていたのにっ!!

翔馬は、ショックで呆然としているわたしの肩に手をまわして
ラブホのなかにいざなっていく。

「待って、駄目だよ」

わたしは、なんとか逃れようとした。
誘われたのは嬉しい。でも、そこまで心の準備ができてない。

「なんで!?」
翔馬が怪訝そうな顔でみる。

「だって、それは…、それは…、わたし、タバコ嫌いなの!」

「へっ?」翔馬はきょとんとする。

「こうしましょ。あなたが2週間、禁煙できたらいいわ。
できたら、わたしのすべてをあなたにあげる」

「何だよ、それ?ありえねえ」

「わたしのこと、大切にするっていう証をみせて」

「こんなの初めてだぜ。はははっ!」翔馬は腹を抱えて笑った。

「でもさ、俺がお前のみてないところでタバコ吸ってたらどうすんの?」
「それはない。わたし、人を見る目はあるの。あなたはそんなセコイまねする人じゃないって分かるの。」

その日はそれでお開きになった。