その女の名前は原島ミカ。
外見はグラビアアイドルなみにイケてて、
校則違反の髪を染め、メイクをきめている。

女の子たちのあいだでは、「ビッチ女」と呼ばれている。
わたしも、詳しいことは知らないけど、ビッチとは、「遊び人」とか「娼婦」のことらしい。
うわさでは三ケタの数の男と関係をもったという。

女として、そこまで、みさかいがなくなったら、終わりだと思う。

ひとつの恋を大事にするわたしとしては、その節操なしの女の子を軽蔑していた。



ある日、突然、わたしとは、何の接点のないミカが話しかけてきた。
塔子ちゃんと絶交して、わたしが教室でひとりぼっちになっていたからかもしれない。

「あなた、翔馬とつきあってるって、本当?」

わたし以外の女の口から彼の名が出たことに少しイラッとした。
「それが、何か?」


「へえ、やっぱりそうなんだ。…へえ、あなたがね」

なめまわすようにじろじろとわたしのことをミカは見た。

「何か用ですか?」

「別に。ただ、翔馬の彼女がどんな人か確認したかっただけよ。じゃあね、失礼しました」

ミカは去っていった。

何よ。突然現れて人を品定めするように見ちゃって、ぶしつけな!!

その時、翔馬の母親の話を思い出した。
「この前の女と違うじゃないか」

この前の女って、もしかして、ビッチ女の子のこと?
前の彼女のことを聞こうとしたらうまく翔馬にははぐらかされた。

そういえば、わたし、翔馬につきあってほしいとか好きだとか一度も告白されたことない。

それどころか、名前だって「陽菜」って呼ばれたことない。
いつも、「お前」とか「あんた」とかしかよばれない。

ビッチ女がもし、前カノだったのなら、「ミカ」って、名前で呼んでもらっていたのかな。

その後、翔馬と会ったが、前カノのこと、ビッチ女のこと、答えが怖くて聞けなかった。