才女はただ地を這う

「これで空振りだったら最悪」


小さく独り言を呟きながら、女子トイレのドアを睨みつける。
北校舎3階の女子トイレ。フレーズだけ取れば学校の七不思議の常連だろう。うちに七不思議が存在するかどうかは知らないけど。


ドアには曇りガラスがかけられており、奥の様子は伺い知れない。まあ見えたらそれはそれで問題だし。
私は、一度深呼吸してからゆっくりとドアを押し開いた。
視界に飛び込んで来たのは、トイレの奥の窓枠に肘をつけるような形で外を見上げている茶髪の少女だった。


「しお……」


予測が的中した……と思い声をかけたのはいささか早計過ぎた。


振り返った少女の髪は確かに茶色だったが、詩織のものとは明らかに違う明るい色をしていた。茶色の絵の具と金色の絵の具を8対2くらいの割合で混ぜ合わせたイメージ。一目で人工的に染めたと分かるそれに柔らかな春光を反射させ、少女はにこやかに微笑んだ。


その右手、人差し指と中指の間には、白い巻き紙の先端から煙を立ちのぼらせている大人の嗜好品。


タバコがくねくねと踊っていた。