*短編* それを「罪」と囁くならば

 




「………………」


だが、そんなおいしそうに食べてくれるヒカルから、ふと《彼》の面影が見えて仕方なかった。
暖かかった心から温もりが消えて寂しさだけが残る。
“会いたい”
そう言ってしまえば、もう全てが終わってしまうから。
その気持ちはずっとずっと我慢して。


「由奈」


「…っ」


すぐそばに綺麗な手が現れて、微かに自分の頬に触れた。
囁かれるように呼ばれた名前と頬に触れたその手に由奈は動揺を隠せなかった。
その綺麗な手を辿れば真っ直ぐに向けられたヒカルの目があった。
全く自分から目を逸らさないヒカル。
いきなりの行動、ヒカルが何したいのかわからなかった。


「由奈」


もう一度、今度ははっきりと由奈の名を呼ぶ。
……いや、ヒカルが何をしたいのかはなんとなくわかっていた。
言わなきゃいけないのに……無意識に由奈の口は震えていた。



目の前にいる彼は――自分に好意を寄せてくれているのだ。