*短編* それを「罪」と囁くならば

 




「………………」


さすがに作りかけはまずいと、由奈は料理を再開させた。

…涙で視界が滲む。
それでも、絶対に涙は流さなかった。
電話の向こうから聞こえた女性の声は……きっと自分と同じ。
《彼》にとっては寂しさを埋めるだけの存在にしか過ぎないだろうから。
本当に気まぐれな人だから、いきなり断られるのも仕方ない。
ちゃんと断りの電話を入れてくれるだけでも嬉しいと、由奈は思うようにしてる。
今頃、別の女性と夜を過ごしているのだろう。
あまり考えたくないのに、考えてはいけないのに、頭の中ではそのことばかり。


「……何でなんだろうな」


―――ただただ、《彼》しか愛せないのは。


その呟きは一人寂しい部屋に響く。





この想いが“愛”じゃないなら一体何になるというんだろう。
時間(とき)は待ってくれず動き続け、いつしかの未来へ。
それは逆も同じことで、遡ることはできずいつしかは過去へ。
季節がいろんな景色を見せ、その景色を眺めながらも想いは過去のものにはならず未来のものにはならず。
なぜなら想いが変わらないのは確かなことで、そして胸の中にずっと在りつづけるから。
例え一方通行の想いだけでしかなくても、それは確かな“愛”だと思いたくて……。