「おい、由奈ってば!!!」


その声にぼんやりとしていた由奈の意識はハッとする。
すぐ目の前には自分を心配そうに見つめるヒカルがいた。
由奈はあ、と声を漏らす。


「何ボーっとしてるんだよ。何回も呼んでも返事しないから心配したぞ」


「ご、ごめん」


由奈は慌てるように謝った。
昨日の夜といい、ヒカルには心配させてばかりだ。
……なぜ思い出してしまったのだろう。
両親との遠い昔のことを。


『ナツミ……』


昨日の夜、《彼》の口から聞いたその名前。
寝ていたから寝言に違いない。
だが、《彼》が自分と一緒にいた時に他の人の名前を口にしたことなど一度もない。
“ナツミ”……それが一体誰なのかずっと気になって仕方がなく一睡もできなかった。
寝てないせいでぼんやりとした意識の中、そればかりが脳内を巡る。