抱きしめられる腕の力が少し弱まり《彼》は呟くように言う。


「由奈だけだね」


「え?」


「安心して傍にいられるのは」


由奈は頬が熱くなり、自分でも赤いとわかった。
慌ててそんな顔を見られないように俯く。
「安心して」なんてこの関係でいる以上嬉しい言葉だった。
自分は《彼》にちゃんと寂しさを埋めてあげられる、そんなふうに思える。
そしてそれは、今寂しさを埋める相手は自分だけということ。
過去にもそう言ってもらえることが何度かあった。


「由奈」


「なに?」


「僕を一人にしないで……」


「………………」


不安げな表情と顔。
何が《彼》を孤独にさせてるかはわからない。
だけど、《彼》の寂しさを埋める限り、由奈は傍にいさせてほしいと思った。
いつか飽きられるかもしれないとそんな恐怖を抱きながらも、その日まで……。




また蝶は舞うだろう。
寂しさを埋めるために幾度も花を誘惑し甘い蜜を吸う。
…孤独な蝶。
誘惑された花はわかっていても蝶の望むままにする。
舞う蝶の姿を残り香と共にずっと忘れられなくなり恋い焦がれる―――。