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「急にどうしたのっ?」


もう夜は遅い。
ヒカルが帰りそろそろ寝ようとした時だった。
…突然の来客が来たのは。
こんな遅い時間に訪ねてくるのは、最初はヒカルが何か忘れ物したのかと思った。
しかし扉を開けてみたら。


「泊めて……」


《彼》が、いた。

呟くように伝えると、彼は倒れ込むように由奈に寄りかかった。
突然の重みに由奈は慌てて支える。
その時、鼻をくすぐったのは僅かな女モノの香水とアルコールの匂い。
由奈は顔をしかめる。。
きっと電話の向こうから聞こえた女の所からの帰りだろう。
なぜ自分のところに来たのかは不思議だったが、由奈は驚きながらもどんな形であれ彼に会えることが嬉しかった。
扉を閉めて自分より幾分か大きい《彼》の腕を首にかけてゆっくりとベッドへ歩き出す。
ベッドに着くとそのまま彼を横たわらせた。
ふぅ、と大きなため息をつく。


「………………」


《彼》の顔をそっと覗けば、すっかり寝息をたてていた。
スヤスヤと眠るその表情に由奈は笑みがこぼれた。
まるで子どものよう。
小さな可愛い子どもの寝顔見ながら頭を撫でる母親の気持ちはこんな感じのかな、と思った。
“愛おしい”って。

《彼》の名前も知らない。
知ってることは何があっても愛する人がいることと、寂しがり屋な性格で気まぐれだということ。
だけどそんな《彼》と、自分は関係を望んでいるのだ。
《彼》に飽きられることを恐ろしいと思いながらも。


……ちょっと喉が乾いたかもしれない。
由奈は水を飲もうとキッチンへ向かおうとした。


「……ゅ、な…?」


掠れた自分を呼ぶ声。
振り返ると目を覚ましたらしい《彼》がこちらを見ていた。
由奈は微笑みながら今いた場所に座り込んだ。