俺には鳥居強(とりい・つよし)という親友がいた。

 大学の理工科の同級生で3年間剣道部で張り合っていた。鳥居は俺の会社のライバル、『ボニー電気』というところに就職した。奴も半導体事業部に配属され、プロセス設計という仕事をしている。
 俺が半導体の中身を作る仕事で、奴はそれを作り込んで仕上げをする仕事だ。

 鳥居は俺と同じ東京に住んでいるが、地方の工場に出張が多く、あまり家にいない。
 奴の両親は父親が引退すると九州に帰り、東京の一軒家を奴に残した。築何十年というおんぼろ木造で、狭い長方形の土地に建っているので、一階は台所、風呂場、便所で、奴の部屋は急な階段を上った二階にある。三階は物置になっていた。
 俺はここによく泊まらせて貰うのだ。合い鍵の在処も教えて貰っている。

 俺は何ヶ月もかかった大プロジェクトを終えて、ようやくリラックスした気分になっていた。
 鳥居に電話すると奴も出張から帰ってきて家にいる。

 俺は一升瓶を持って夜の九時頃、鳥居の家に行った。