忍が俺を見て、股の間の椅子に突いた両腕を絞る様に胸に付け、テーブルの上に少し乗り出して甘えた声で言った。

 ウエイターは憮然として俺を見た。

「吾郎さん!ワイン注文してよ」

 俺は未成年者に飲ませて良いのだろうかと迷ったが、アシジの赤を一本注文した。イタリアのアシジ地方で生産される珍種だ。いい値段だが、今宵の為なら、残業に次ぐ残業で入った給料を注ぎ込んでも悔いはない。

 忍は快活だった。本も良く読んでいる様で、話題が豊富で機転も早いし、会話を途切れさせない。黙り込む傾向の俺も、自然に話せたし、冗談も言った。忍が男の子であることなど、本当にどうでも良くなった。

 忍の可愛い口の動きを見ていると、股間が熱くなって困った。それを誤魔化すために必死に話題を作った。

「映画見てる時、俺の腕にしがみついてたね。あの人間が熔ける場面で」
「・・・だって、恐いじゃない!リアル過ぎるよ!」
「あれは実写に後でCGを施しているんだ。でも解剖学的に研究してリアルさを出してるんだよ」
「ふーん、吾郎さんてやっぱり技術に詳しいんだね。兄貴なんか、技術者ぶってても掃除機も直せないんだよ」
「はは・・・技術者って言ってもいろいろさ。俺なんか『技術屋』だよ」
「何?それ?」
「電気のイロハを知らなくても、高尚な技術を知っていれば技術者さ。技術屋はしこしこ半田付けなんかをやる職人さ。実験屋とも呼ばれている」

 忍は、理工系の人間でもいろいろいるということを垣間見て楽しそうだ。