「やあ。」
僕に気づいたそのスーツを着た男は、おかえりとでも言うように僕を見つめた。胸を射ぬかれたような気持ちになった僕は、どもりながら、こんにちはと返す。
「おかえり。」
そんな緊張した(僕だけだけど)空気を壊してくれたのは母さんで、今夕飯の支度をしていた。
客を放って夕飯の支度……?
僕は母さんに寄り、
「あれ誰?お茶はいいの?」
と小さな声で聞いた。
母さんはうんと返すだけで、夕飯に使われるであろう玉ねぎを刻んでいる。
当の黒い男を見れば、ぼんやりと窓から外を見ていた。たまに遊びに来る母さんの友達なら、夕飯ぐらい一緒に食べても不満は無い。
だけどあの男は、初めて見る男だ。いやでもどこかで……?
「少し、話していたら。」
「はっ?」
あの男と?僕は初対面のおっさんと談笑出来るような技術は持ってない。
でも母さんはそれだけ言うと、変によそよそしく、もう声を発しなかった。


