スリーズ・キーノート


イチさんは、自分だ、と言って欲しかったのかもしれない。でも過去を言葉からしか知らない僕に、そんな事を言える権限なんてないんだ。

「……イチさんは、いつまで母さんに謝るんですか。」
「俺が死ぬまで。」

川を見続けてるイチさん。どんな顔をしているんだろう。ラジオも付けていない車内は、ひどい無音だった。
「……俺は、それからの話……を、しなきゃな。」
ここらが一番ひでえんだぞ、とイチさんは笑うように言ったが、きっとそれは、自分に笑っているんだろう。
自分に、失笑。
「お前の母ちゃん、身内で何て言われてるか知ってるか?」
「いいえ。」
「悪女。売女。尻軽、ってな……。事情も知らねえ奴等が勝手に言ってんのさ。胸糞悪い。」
「はあ。」
「でもなあ、いい女、ってのは大抵そんな事言われんだよ。」

僕には、解らないけれど。