君が為に日は昇る

ある意味でそれは賭けだった。


先手必勝。当たりさえすれば命を取らないまでも手傷ぐらいはつけられたかもしれない。


その前に立ちはだかった壁。男の変わらぬ視線と僅かに吊り上がった口角。


清蔵にとっては余りにも高い壁。


━…………!!


彼は気付く。今自分が何も手にしていないことを。焦り腰に差した刀を鞘を引き抜く、が。


既に眼前に迫る、鎖分銅。


避けようなどと考える暇はなかった。運が良かったとしか言いようがない。


ただ抜刀した柄がそこに偶然あっただけ。それだけのことだった。


「あ…。」


清蔵は気付かぬ内に後ろに吹き飛ばされていた。


尻餅をついた痛みさえ忘れ、ただただこみあがる恐怖。


吹き出す冷たい汗。立ち上がれない程に震える足。


圧倒的な実力の差を見せつけられた清蔵はすっかり正気を欠いた。


「…来るな!来るなぁっ!」


狂ったように刀を振り回し清蔵は後退る。情けないかもしれないが当たり前のことだ。


彼は戦いなど知らない、ただの農民の子なのだから。


「無様な…。」


男が初めて発した罵倒の言葉さえ、彼の耳には届かなかった。