君が為に日は昇る

「幕狼の。あんた俺に何故戦うかと言ったね?」

「あんたは何故戦うんだい?」

「……!!」


前髪についた汗を払いながら東雲は問いかける。僅かに生まれる動揺。


幕狼隊。


快楽、地位、名誉、野望。様々な欲にまみれた人斬り集団。


この奥村空也という男からはその人斬り集団が共通して放つもの。


「あんたの剣には狂気がまるでない。」


そう、狂気。


狼達は獲物を見付けた時、冷静に、狡猾に、残虐に、そして喜々として飛び付いてくる。


東雲はこの時世において狼達と何度も立ち会い、何度も斬り捨ててきた。


その中に確かに在った狂気。それがこの奥村には無いのだ。


東雲にはそれが疑問に思え、そして興味深くて仕方がなかった。


「…忠義。ただそれだけの為に。」


そして彼が絞り出すように呟いたのはその狼の中にあって驚くべき言葉だった。


「今は亡き前の将軍様は素晴らしい御人だった。」


静かに語り出した彼に、東雲は黙って耳を傾けていた。


今から数十年も昔。


この国は平穏に満ちていた。