「おい、なんだよ……どうしたんだって！」

　普段から気丈なひろみが涙を見せるなど並大抵のことではないと武彦は直感していた。腰をあげると肩を掴んで問い詰める。

「おい！　ひろみ」

　肩を揺さぶる夫の手を優しく包み、そしてゆっくりと頷くとひろみは静かに言った。

「仕事に……なっちゃった」

「……」

「災害救助なの……仕方ないよね」

「……」

　そんな二人のやりとりを心配そうに見上げる侑海は、つぶらな瞳に憂いをたたえて呟いた。

「お花見は？」

　その言葉にひろみは腰を屈めて我が子を強く抱きしめ、そして思わず漏らしそうになる嗚咽をかみ殺す。

「ご……ごめん、ママ仕事が入っちゃって……ホントにごめんね」

「そんなわけねえだろ！」

　そのひろみを無理やり引き離し、強引に体を向き直させる夫の腕は予想外に強かった。

「ちゃんと説明しろよ！」