足早に自宅の玄関に駆け込むと、電気も付けずに台所へ入り冷蔵庫の中からペットボトルを取り出して一気に飲み干す。その早百合の背後から突然怒気を含んだ声が掛かかった。

 飛び上がるほど驚いた早百合は、持っていたペットボトルを床に落としてしまった。柑橘系のジュースが飛び散ると、あたりは甘酸っぱい香りに包まれる。早百合はボトルを拾い上げながら悪態をついた。

「びっくりさせんなよ」

 それは父親に対して吐いた言葉だった。

「いま何時だと思ってるんだ」

「……」

 早百合は無視を決め込み、暗い室内で器用にキッチンタオルを取り出すと、黙々と床を拭き始める。それを制して父親は厳しい口調で娘を責めた。

「いい加減にしろ、もう高校生になるんだぞ。いつまでこんなことを続ける気だ!」

「あんたに関係ないだろ」

「関係ないだと? 誰が育ててやってると思ってるんだ」

「『やってる』ってなんだよ。そんなこと言うんじゃねえよ。あんたがあたしを孕ませたんだろ?」

「屁理屈言うんじゃない!」

 恫喝にも似た父親の言葉が深夜の住宅街に響いた。