無我夢中で

 必死で

 とにかく、話さなくては、という想いだけで


 先輩の腕を引っ張った。


 すると先輩は驚いた表情で私を見る。

 そりゃ驚くのは当然だろうな。


 …冷めた視線じゃなくてよかった


 そう胸を撫で下ろしていると

「…何?」

「あ、あの…」

 嬉しさに浸る間もなく、先輩の問いかけでハッと我に返る。

 先輩を引き止めたはいいものの、何を言いたいのか自分でもさっぱりだった。

 数秒悩んだ末、一番伝えたかった事を一言一言、噛み締めながら口にする。

「…短い間でしたが、ありがとう、ございました…それと…すみませんでした…」

 言いながら頭を深々と下げた。

 言いたかった事。


 お礼 と 謝罪


 やっと言えた事にホッとしながらちらりと先輩を見る。

 先輩は、笑って、何も言わずに、何事も無かったかの様に、行ってしまった。

 それでもいい。

 何も言われなくてもいい。

 ただ、伝える事が出来たという満足感だけが私の心を満たしていた。




 卒業式が終わる。

 先輩達は学校を去っていく。

 もう、私と先輩は二度と会えないだろう。



 そして、これで私も―――『先輩からの』卒業を果たした。



 その後、先輩がどんな道を進んだのかは勿論分からない。

 でも先輩が―――幸せだといいな。

 私は今でも、いつまでも、幸せを願っています。