「あんたこれ以上ここに居ると、益々シケた面になりそうだよ。とっととそれを秀一さんへ届けておくれ」
考えごとをしているのがばれたのか、なんでもかんでも思っていることが顔にでる体質は損だと思った。
「はぁ。じゃあ、僕行きますね。コレ、ありがとうございました」
ロク婆さんに詰めてもらった紙袋を抱え、土間づくりの戸口に向かった。ロク婆さんの家はこの近所では珍しく、昭和のドラマに出てくるノスタルジックなモダンハウスに酷似していた。カラフルな家具の配置や漂っているバニラの香の匂いなんかが一層、レトロな雰囲気を醸し出していた。ここに相乗効果としてフォークソングのレコードが掛かっていたとすれば、僕は間違いなく何らかの形でタイムトラベルをした気分になっていたんだなと思った。
玄関に降り、オニヅカタイガーのランニングシューズに足を通していると、背後からロク婆さんがやってきた。一瞬、鋭利な刃物(もしくは鈍器)で刺されるかもしれないと現実味のない想像に身じろぎしたが、背後を振り返える勇気もなかったので折れた靴のかかとを直してみた。
